上流側の火葬場で変なおっさんに行く手を阻まれたので今度は下流の方へと歩いていくことにした
川沿いをテクテクと歩いていくわけだがやはり歩くごとに人の数が減っていく
しばらく歩いているとインド人の若者が流暢な日本語で話しかけてきた
無視してても構わず「どこいくの?何してるの?一人?」等と話し続けてくるから「ああ、はいはい、そんなんだ~」と適当に流しながら先を歩く
男はクリシュナと名乗った
神の名をかたるとはなんたる不届き者
俺が「そうなんだー」というと男も気の抜けた声で「そうなんだ~」と返してくる
変な男に話しかけられながら歩いていると太ったアラフォーくらいの女が対面から歩いてきた
すると男が「今の女は日本人だね」と言ってきた
正直よくわからなかったが男の言うことを肯定するのはなんだか癪だったので
「いや、違うんじゃない?中国人かな」と適当なことを言った
すると男はじゃあ正解した人に不正解だった人がビールを一本奢るってのはどうだと持ち掛けられ、ちょっと面白そうだったので話に乗ることにした
男は俺に話しかけてよと言ってきたが、俺は中国人のほうにかけてるんだから日本語しゃべれるお前がいけといって声をかけに行かせた
当然女は不信感丸出し
男の言った通り日本人っぽい
一言もしゃべらなかったが二人で何人か賭けをしているとネタばらしをしたところ急に笑い出し日本語でぺちゃくちゃとしゃべりだした
少し雑談をし、クリシュナとその女は上流に戻って待ってるというので別れて一人でさらに下流に向かった
下流にも火葬場があったが上流より少し規模が小さい
人が燃えている
人が道で薪に挟まれて燃えている
なんとも変な光景だ
上流とは違いとやかく言ってくる輩はいない
のんびり見て回れて良い
川べりに建った小さな建物の上に僧侶的な奴が立ち物寂し気な鐘をカーン、カーンと鳴らしている
きたねえ川は穏やかに流れている
日も暮れかけ風が心地よい
辺りはなんだか静かでどことなく寂しい感じがある
少し落ち着く
しばらくぼんやりして元来た道を戻ることにした
上流より下流の火葬場の方が断然いい
しばらく歩くと先ほどの女とクリシュナと名乗るインド人の若者が座ってチャイを飲んでいた
クリシュナは俺にもチャイを奢ってくれた
川沿いのコンロがあるだけで店も何もないチャイ屋
これよもや川の水とか使ってないよなと少し心配になったが思い切って飲んでみた味はふつう
しばらく雑談
女は俺がクリシュナに付きまとわれ迷惑そうにしているのを見て一人になりたいときもあるだろうからそっとしておいてあげなさいと説教をしていた
外国まで来てわざわざ日本語しゃべりたい日本人はあんまりいないのよ
などとも言っており太っているくせになかなか分かっている女だった
クリシュナはそんなことはない、人は人と話していると楽しいに決まっている
話すことによって人の輪が広がっていくとかなんとか独自の理論をぶちまけていた
正直心底どうでもよかった
そんなしょうもない話をしていると宿の話になった
ネットで調べるとバラナシのそこそこ有名な日本人宿はサンタナと久美子の家の二つが上がる
クリシュナは「サンタナは良くない」としきりに言っていた
コルカタで出会ったインド人といいこいつといいインド人はよほどサンタナが嫌いなようである
ちなみに女はガンジス川沿いにある久美子の家という日本人宿がよくないとディスっていた
汚いしラリってるやつが多いのだそうだ
こいつらの意見をまとめるとバラナシで泊まるなら日本人宿以外の普通の宿ということだ
まあそっちのほうが快適なのは間違いないだろう
チャイを飲み終わり女と別れ
賭けに負けた俺はビールを奢るべくクリシュナと街のほうへと歩いて行った